桜の季節に押し寄せる、情報という名の津波
桜の便りが聞こえてくると、僕の胸は少しざわつきます。
春って、本当は好きなんです。新しい始まり、子どもたちの成長、そして救急の現場で出会う新しい仲間たち。
でも同時に、この季節は「情報という名の津波」が押し寄せてくる時期でもあります。
新しい部署の業務フロー、最新の医療ガイドライン、緊急時の連絡体制…。家に帰れば、学校からの大量のプリント、PTA活動の説明、習い事のスケジュール、年間行事予定…。

3人の子どもを育てる父親として、救急の現場で働く看護師として、僕の頭の中は常に「覚えなきゃいけないこと」でいっぱいでした。
「あれ、これってどうなってたっけ?」 「重要なポイント、メモしたはずなのに…」 「あの本に書いてあったこと、何だっけ?」
そんな焦りが、日常に染み付いていました。
あの夜、娘が教えてくれたこと
転機は、ある日の夜に訪れました。
医療書籍の山を見つめながら、必死に重要箇所をノートに書き写していた僕に、長女が嬉しそうに駆け寄ってきました。
「パパ、今日ね…」

でも僕の耳には、その言葉が入ってきませんでした。頭の中は「この章を今日中に覚えなきゃ」でいっぱいだったから。
「ごめん、もう一回言って」
そう聞き返した瞬間、娘の表情が少しだけ曇ったのを見て、ハッとしました。
僕は何のために、こんなに必死になっているんだろう?
患者さんのため。家族のため。そのために効率的に学び、時間を作ろうとしている。
なのに、その「効率化」に追われて、肝心の**「今この瞬間」**を見失っている。
その夜、僕は決めました。
「覚える」ことを、やめよう。 「忘れても大丈夫な仕組み」を作ろう。
「0→1は人間、1→100はAI」という生き方
僕のモットーは「0→1は人間、1→100はAI」です。
創造性や感情、判断が必要な「0→1」の部分は、人間が泥臭くやる。患者さんの小さな変化に気づくこと、子どもの笑顔を見逃さないこと、新しいアイデアを生み出すこと。
でも、情報の整理や記憶、検索といった「1→100」の部分は、潔くテクノロジーに任せる。
この役割分担を明確にしてから、僕の鞄の中にはいつも、頼れる「相棒」たちがいます。
僕が録音するのは、「他人の言葉」じゃなくて「自分の気づき」

ここで、とても大切なことをお話しします。
セミナーや講演会など、他人のコンテンツは、勝手に録音・クラウド保存しません。これは著作権や規約の面からも、医療従事者として絶対に守るべきラインです。「公開セミナーだから録音OK」というのは完全な誤解で、必ず主催者の許可が必要です。
じゃあ、僕は何を録音しているのかというと——
「本を読みながら浮かんだ、自分の気づきや疑問」です。
ある休日。資格更新のために買った分厚い専門書を前に、僕はポケットからOLYMPUS DM-750を取り出しました。そして、こんな風に独り言を録音し始めました。
「今のページ、血行動態の考え方がすごくわかりやすいな。これ、あの患者さんのケースに当てはまりそう」 「ショックの分類、救急の現場ではこう整理した方が使いやすそうだな」 「この図、自分なりに書き直してみたい。矢印をもっと分かりやすく…」
録音しているのは自分の声だけ。内容も自分の内側から生まれた言葉だけ。これなら、著作権的にも、守秘義務的にも、完全に安全です。
なぜICレコーダーなのか?スマホでも録音はできますが、専用機には圧倒的なアドバンテージがあります。起動の速さ、音質の安定性、バッテリーの信頼性、そして何よりワンボタンで即座に録音開始できるシンプルさ。
「記録はこいつが完璧にやってくれる」
その安心感があるから、僕は本に集中できる。文字の奥にある著者の意図、現場への応用イメージ、過去の経験とつながる瞬間。ノート取りに追われていた頃には絶対に拾えなかった「感情の揺れ」まで、ちゃんと感じられるようになりました。
セミナー・研修での賢い情報管理
セミナーや研修での情報管理についても、プロとしての対処法をご紹介します。
基本原則:録音は必ず許可を取る。迷ったら録音しない。
僕の実践方法
- セミナー中:手書きメモのみ(重要ポイントとキーワードに絞る)
- 休憩時間:トイレなどで自分の言葉で音声メモ「今の話で気づいたのは…」
- 帰宅後:メモを見ながら自分の理解を音声で整理
- Notta→NotebookLM:自分の言葉だけで構成された学習記録を構築
この方法なら、他者の著作権を侵害することなく、自分の学びを完璧に記録できます。重要なのは「他人の話」ではなく「それを聞いた自分の思考」を記録することです。
音声が「第二の脳」に変わる瞬間
子どもたちが寝静まった夜。録音した「自分の気づき」の音声データを、AI文字起こしサービス「Notta」にアップロードします。
ここで扱っているのは、あくまで自分の言葉だけ。誰かの講義でも、他人の個人情報でもありません。だからこそ、安心してAIに任せられます。
僕の情報仕分けルール
- 自分の思考・気づき・感想の音声メモ → AI活用OK(自分の著作物だから)
- 市販書籍の読書メモ(自分の言葉で) → AI活用OK
- 家族のスケジュール管理 → AI活用OK
- セミナー等の録音 → 主催者の許可を必ず確認(基本的には避ける)
- 業務上の機密情報や患者情報 → 完全アナログ管理
数分後、散らばっていた僕の思考が、完璧なテキストになって目の前に現れました。これは、魔法のようでした。
音声ファイルのままでは「あの気づき、どこだっけ?」と探すのに何十分もかかります。でもテキストになれば、キーワード検索で一瞬。
次に、このテキストをGoogleのNotebookLMに読み込ませます。すると、不思議なことが起こります。
そのテーマについて過去の自分が考えたことを全て記憶している「もう一人の自分」が誕生するのです。
僕だけの「専用AI秘書」たち

僕のNotebookLMには、こんな「専用の脳」が並んでいます。
- 「救急看護_読書からの学び専用」
- 「ACLS学習_自分の弱点まとめ専用」
- 「長女_小学校年間行事専用」
- 「キャンプギア_購入検討メモ専用」
運用の極意は「混ぜるな危険」。1つのNotebookLMには、1つのテーマのデータしか入れません。
例えば、夜勤前にふと疑問が浮かんだとき。「あのガイドラインの新しい処置手順、確か本を読んだ時に何か気づいたことがあったな…何だっけ?」
NotebookLMに質問すると、あの日の読書中の僕が録音した気づきの中から、的確な回答が瞬時に返ってきます。まるで、本を読んでいた「あの日の自分」が、今の自分を助けてくれているような感覚。
これは、記憶力を補うのではなく、「思考の外部化」なのです。
守るべきものは、お気に入りのペンと共に
もちろん、全てをデジタル化するわけではありません。
医療現場の内部カンファレンス、患者さんの情報が含まれる会議。そんな時、僕はワクワクしながらお気に入りのペンを取り出します。
文房具好きの僕にとって、手書きメモの時間は、ある種の「儀式」です。万年筆のインクが紙に吸い込まれていく感覚。思考を視覚化する自由度。手を動かすことで、情報が体に刻み込まれていく実感。
アナログには、アナログにしかない価値がある。
そして何より、機密情報はクラウドに上げないという明確な線引きが、プロとしての責任を果たすことにつながります。
「自分の思考はAIで攻める。機密情報はアナログで守る。」
この使い分けこそが、情報に振り回されず、情報の主導権を握るための作法なのです。
個人メモの軽やかなデジタル化

機密性のない個人的な学習メモは、スマホのGoogleドライブアプリで撮影するだけ。自動でPDF化され、文字認識までしてくれます。
さらに、Google Workspace有料版を使っている僕は、こんな裏技も使います。走り書きした乱雑なメモを、Googleドライブ上のGeminiに見せて、「この内容を論理的に要約して」と依頼。
すると、整理された美しいテキストが返ってきます。これをNotebookLMに学習させることで、アナログの直感性とデジタルの検索性が融合します。
まるで、自分の思考が、より洗練された形で保存されていくような感覚。これが、僕の「第二の脳」の作り方です。
システムが生み出した「3つの余白」
このワークフローを使い始めてから、僕の人生に生まれたもの。それは、3つの「余白」でした。
心の余白:「覚えておかなきゃ」プレッシャーからの解放
「この本の内容、全部覚えなきゃ」という不安が劇的に減りました。自分の思考は全てNotebookLMに、機密情報はしっかりアナログ管理という安心感が、今この瞬間に集中する力を与えてくれました。
患者さんの表情の変化に気づけるようになった。子どもの話を、心から聞けるようになった。
時間の余白:情報検索時間の激減
「あの本に書いてあったこと、何だっけ?」と探し回る時間が、ほぼゼロになりました。一日に何度も発生していた「情報探し」の時間が、NotebookLMに質問を投げるだけの数秒に短縮。
この積み重ねが、家族との夕食の時間や、自分のための読書時間に変わっていきました。
空間の余白:美しく整理された環境
情報の性質に応じて保管方法を選択することで、物理的にもデジタル的にも整理された環境が生まれました。美しく整理されたデスク、すっきりしたPCのデスクトップ。この「余白」が、新しいアイデアを生む土壌になっています。
あの夜から数ヶ月後、娘がくれた最高の笑顔
システムを構築してから数ヶ月後のある夜。また長女が「パパ、今日ね」と話しかけてきました。
今度は、僕は本を閉じて、娘の目を見て聞きました。学校で描いた絵のこと。友達と遊んだこと。給食が美味しかったこと。
他愛もない話。でも、娘の目はキラキラと輝いていて。
「パパ、ちゃんと聞いてくれてる」
そう言って、満面の笑みを浮かべた娘の顔を見た時、気づきました。
僕が本当に欲しかったのは、「全てを覚えている完璧な自分」じゃなかった。「大切な瞬間を、大切にできる自分」だったんだ。
春、軽やかに歩き出すために
新しい環境での「覚えること」は、これからも山積みです。でも、今の僕には「忘れても大丈夫な仕組み」があります。
今回のポイントを整理すると
- 自分の思考を音声録音:ICレコーダーで読書中の気づきを記録
- Nottaでテキスト化:検索可能な形に変換
- NotebookLMで対話:過去の自分といつでも対話できる
- 情報の権利を守る:他人の著作物は勝手に録音・AI化しない
- テーマ別NotebookLM:専用AI化で回答精度を最大化
安全に活用できる情報の例
- 市販書籍を読んだ時の自分の気づき・感想
- 散歩中に浮かんだアイデアの音声メモ
- 自己学習の記録や振り返り
- 家族のスケジュール管理(個人情報を含まないもの)
必ずアナログ管理すべき情報
- 業務上の機密情報
- 患者さんの個人情報
- 他者の著作物(許可なく録音したもの)
- 組織の内部資料
テクノロジーは、人生を豊かにするための道具です。そして、ルールを守り適切に使いこなせたとき、私たちは本当に大切なものに気づけるのだと思います。
もし今、情報に溺れそうになっているなら。「覚えなきゃ」というプレッシャーで、大切な瞬間を見失っているなら。
次に本を開く時、ICレコーダーも一緒に準備してみてください。読書中に浮かんだ気づきを、自分の言葉で録音してみてください。
小さな一歩が、あなたの人生に「余白」を生み出します。
春は、新しい始まりの季節。でも同時に、「本当に大切なものは何か」を見つめ直す季節でもあると思うのです。
あなたの新年度が、より軽やかで、より温かいものになることを願っています。
そして、いつかどこかで、あなたの「余白」の物語を聞かせてください。
それでは、また。
Tech Gear Labo
セージ

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